10月27日に米海軍のイージス駆逐艦ラッセンが、南シナ海にある南沙諸島の中国が埋め立てた人工島周辺の中国が領海と主張する海域を航行しました。
第7艦隊水上戦部隊所属の横須賀港を母港とするイージス艦ラッセン
※Military Powersより画像転載
哨戒機P-8(ポセイドン)も同行したようです。
※ウィキペディアより画像転載
軍事に詳しい人によれば、原子力潜水艦が同行した可能性もあるそうです。
地図上の南沙諸島の位置はこのあたり。
中国の大陸から南沙諸島あたりまで伸びる赤い線を領有権として主張しており、この線が舌を出しているように見えることから「中国の赤い舌」と呼ばれています。
この人工島は、満潮時に沈んでしまう暗礁を無理やり埋め立てたもので、国際法上「島」と認められておらず、アメリカは「この人工島は中国の島であるとは認めない」ということを示すために今回の作戦に踏み切りました。「航行の自由作戦(FONOP→Freedom Of Navigation OPeration)」という作戦名です。
写真のように中国は既に滑走路を建設し、各種レーダーも配備しており、今後この地域の軍事的脅威になるため、アメリカ国防総省はオバマ大統領に対してずいぶん前から「手を打つべき」と提言していたらしいですが、先月2015年9月の習近平の来米時になってやっと、オバマ大統領が直接習近平の言動を見て「こりゃまずい!」と重い腰をあげて行動に移しました。
習近平が晩餐会で、書面の棒読みで「(南沙諸島は)古来から中国の領土だ」と言い放ったことがオバマ大統領を激怒させたとの話もあります。
今回のこのオバマ大統領の反撃は、中国政府に対してはもちろん、習近平に対しても結構鋭いパンチとして効いているようです。というのも、中国側が結局何もできなかったという事実を内外に晒すことになったからです。必ずしも一枚岩ではない共産党内部、そして一般民衆からも「なんて弱腰なんだ!」と批判の目で見られることは必須です。
アメリカと中国は水面下で繋がっていて、今回の行動もお互い了承した上でのパフォーマンスだという意見を見かけましたが、習近平が受ける衝撃を考えると、そんなことは絶対あり得ないと思います。習近平が自らの政治的立場を危機に追いやる様なことを了承する筈がありません。
アメリカは、今後もこの作戦を継続的に行っていくと言っているから、習近平にとってかなり厄介な問題になるのではないでしょうか。
中国を困らせるのに効果的な非常に嫌~なやり方だと思います。(アメリカを怒らせたら怖いですね~…)
中国のメディアでは、激しくアメリカの行動を批判してはいます。「こんなに平和を愛しているわが国に対して、アメリカはけしからん!我々は厳しく対抗措置をとる!」といったところでしょうか。
しかしネットユーザーの反応では、アメリカへの怒りではなく、政府の対応を嘲笑するようなコメントが結構見られました。
中華網(china.com)というポータルサイトに「アメリカ艦船の領海侵入に対する5つの対抗策」と題する記事が出されています。
米国への激しい批判と、中国政府が行う対抗措置が書かれていましたが、ネットユーザーの書き込みの中で「点赞(dian3 zan4)」(フェースブックの「いいね」ボタンの様なもの)が一番押されていたコメントは、
「ははは!つまり対抗策は(撃沈する等の強行措置ではなくて)、その1:追いかける、その2:監視する、その3:大声で呼びかける、その4:反対する、その5:抗議する、ってことね。どれをとっても天下無敵だね。」
という、結局は何もできなかった政府の対応を嘲笑するコメントでした。
このコメントに対する返信で、
「外交部(日本の外務省に相当)も1つ対抗策を持っているぞ→強烈不満!」
というのがありました。日本でも、政治家に対して「誠に遺憾である」と言ってるだけじゃなくてちゃんと対応しろよ!と批判することがありますが、これの中国版が「強烈に不満である!」ばっかり言ってないでちゃんと対応しろ!ということみたいです。
2番目に「点賛」が多く押されていたのも似たような内容で、3番目は、
「これって意味あるの?これでアメリカ軍は来なくなるの?」
という不信感と諦めが感じられる素朴な疑問のコメントでした。
その他いくつかは、アメリカ軍への怒りや、祖国愛を語る美しいコメントもありました。ただ、中国にはインターネット上の書き込みを検閲するインターネット警察がいて、書き込みを監視するだけではなく、共産党にとって都合の良いコメントを書き込んでいると言われます。おそらくそれらの共産党が喜びそうな書き込みは、そういう共産党側の人が書き込んだと思われ、そういう見え透いたコメントには「点賛」も大して押されていませんでした。
つい先月に、盛大な軍事パレードを行って、自国民に中国が大国になったことをPRしたばかりでしたが、こういう書き込みを見ると、共産党政府に対する失望感が感じられます。
もし人民解放軍が手を出した場合、今現在の実力差であれば一瞬で完膚なきまでに反撃されてしまい、共産党政府の威信が完全に失墜してしまうので、今後も何もできない状態が続くことでしょう。その度に、習近平は冷や汗を流すのではないでしょうか。
ただ、日本人としては習近平が追い詰められる様子を高みの見物するだけではなく、今回のアメリカの行動により、中国が人工島建設を中断するのかどうかに関心を持つ必要があります。
南沙諸島の人工島建設に関して、アメリカは「日本はなんで深刻に受け止めてないの?!」と非常に驚いているようです。(YahooニュースJBpress記事より)
この地域は、日本の生命線とも呼ばれるシーレーンがあり、それをアメリカ軍が守っているのだがその意識は日本にあるのか?と言いたいようです。
2012年9月の尖閣諸島国有化をきっかけにした反日デモの際、中国はレアアース輸出制限や、関税手続きやビザ発給手続きを遅らせるなどの嫌がらせを行いましたが、中国との貿易に関係の無い人にとっては痛くも痒くもありませんでしたし、優秀な日本はレアアースの代替案を速やかに作りました。しかし、日本への原油輸入の9割を占めるルートである南沙諸島が封鎖されるとなると、日本全体に大打撃を与えることになります。
素人考えで、「南沙諸島封鎖されたら迂回すればいいんじゃ?」とも思いましたが、その場合かなりの距離が必要になり、それだけの時間とコストもかかるので経済大混乱は免れないそうです。篭城作戦に出るにしても、日本の石油備蓄量は190日分程度らしいので、1年以内にギブアップとなるそうです。
ユーチューブで南沙諸島人工島建設に関する日本のテレビ番組を見てたら、出演者さんが「このアメリカ軍の行為で日本に何か影響でないか心配」的なことを話してましたが、軍事衝突が発生して自衛隊出動するのかどうかという問題よりも、人工島に軍事基地が完成してしまい、今後中国がシーレーン封鎖を政治カードに使ってくる可能性の方が怖いというのを理解した方がいいですね。
もちろん中国側からすれば、狙いは日本のシーレーン封鎖だけではなく、アメリカ軍を南シナ海から追い出すことのようです。人工島が軍事基地になれば空母10隻に相当するらしいので、アメリカ艦船も近寄れなくなります。アメリカ側としては、この地域を押さえられなくなれば、中国軍の大陸間弾道ミサイルが発射できる原子力潜水艦が太平洋に展開するのを把握できなくなり、自国にとっての危機になるので中国の海になるのを絶対に防ぎたいようです。
中国は「日本も沖ノ鳥島を埋め立てて人工島を造ったではないか!」と言っていて、上記のニュース記事に対してもそのようなコメントがありました。しかし、沖ノ鳥島は満潮時にも水没しない「島」ですが、南沙諸島で中国が埋め立てて造った人工島は、満潮時に水没してしまう低潮高地と呼ばれるもので、埋め立てて人工島を造っても領土とは認められません。
これは、日本やアメリカ側の勝手な言い分ではなく、国際社会のルールである「国際法」に基づいています。複数の国が平和的に共存できるように、領土問題についてはこの国際法に基づいて解決します。
本ブログは、日本語が流暢な中国人の友人やお客様もたくさん読むようになってきたので、少々遠慮がちに書きますが(^^;)、どう見てもおかしいでしょ!という点については、はっきり書かせて頂いてます。
そもそもこの南沙諸島は、周辺諸国が領有を主張しており、それが解決していないのにもかかわらず、軍事的恫喝を伴って占領した上、島が無かったところを埋め立てて軍事基地を建造して、そこを中国領土であると主張しています。これは国際法を無視した、平和に暮らしている人々の幸せをぶち壊す暴挙であり、このような侵略行為を中国はすぐに中止するべきです。
習近平国家主席には、アメリカ軍なんて叩き潰してやる!なんて言ってるような国内の強硬派を上手くなだめつつ、国際法を無視した海洋進出は誤りであったと国民を説得し、正しい方向に方向転換して頂くことを望みたいと思います。